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こ  と  こ

【インタビュー】セレクトショップ AVET

大阪・神戸から近く、
島だけど島じゃない、淡路島。

そんな不思議な魅力を持つここ淡路島には、
同じように不思議な魅力を持つ人が多くいます。
淡路島で生まれ育った人、一度外に出て帰ってきた人、
何のゆかりもないけれど島にたどり着いた人。

ひとりとして同じルーツは無く、
生き方のサンプルがたくさん見られる場所。

観光では有名な淡路島。
今回は、淡路島で暮らし働く、
島の人たちにリアルな声を聴いてみました。

この記事を読めば、今より少し、
深く面白い淡路島の姿が見えてくるはず。



何の変哲もない、志筑のまちの交差点。
午後になれば小学生たちが楽しそうに下校する、長閑な景色が広がる。
日常の1ページにあらわれる、普通の街だ。

ふとそこに現れた、不思議な磁力を放つ場がある。
セレクトショップ、AVETだ。
こだわりと世界観の詰まったラインナップは、
淡路島では唯一扱っているブランドを店主自身がセレクトし、
多様な人々とお洋服との接点を生みだしている。

なんと店主は淡路島生まれ淡路島育ち28歳の男性。

そんな彼に、開業への想い、淡路島への気持ち、
これからの展望について聞いてみた。



人とは違うことをするのが好きだった青年期。
ひょんなことから溢れ出た「お洋服」への想い。

ーーそもそもお洋服が好きになったのはいつだったんですか?
衝撃的なきっかけはなかったですね。結構女の子っぽい性格なのかもしれないです。基本的に自分が思う「可愛い」ものが好きですね。そのひとつにお洋服がありました。当時は淡路島を出て、神戸に1回1回お洋服を買いに行くことが楽しみで仕方なかったです。周りと違うことをしたい、面白いことをしたい、そんな願望もあったのかもしれません。

ーー店舗をオープンされる前のお話をお聞きしたいです。お洋服と関わり始めたのはいつだったんですか?
大学時代は全く関わりはなかったですね。好きではありましたが趣味での関わりでした。その後、大学を卒業し、一度全く関係ない業界の仕事に就きました。でもその仕事の新入社員研修のとき、「やっぱりお洋服の仕事がしたい」と強く思い、すぐに会社を辞めました。素直になれたタイミングだったのかもしれませんね。

ーーすごい決意ですね。違和感が逆にお洋服への想いに気づかせてくれたのでしょうか。その後、お洋服の仕事に携わったのはどういう経緯でしょうか?
そうかもしれませんね。そこから、よく通っていたお店の方に声をかけていただくご縁がありました。そこから、アパレルの仕事に携わり始め、23歳~28歳の5年間勤めました。

ーーそこから、なぜAVETをオープンしようと思ったのでしょうか?それも淡路島で。
このまま会社で働いたとしても、数年後・数十年後の未来を見たとき、それはありたい自分の姿ではないと感じたんですよね。それに加えて、自分が関わりたいお洋服との関係性に近づききれないと思いました。
淡路島でオープンしようと思ったのは、単純に神戸、大阪でやる自信がなかったんです。淡路島だから、自信を持てたのかもしれません。ただ経営については、全然初心者でしたし、年齢的にも今から会社で学べることが沢山あったはずで、勉強すべき時間だったと思うんですよね。でも、その時間を待っていたら、あっという間に人生が終わってしまう、それなら躊躇する時間が勿体ないと思いました。

ーー自分なりのお洋服との関わり方へのこだわりが垣間見えます。淡路島での開業に不安はなかったんですか?今もですが。
今も淡路島で、確固たる自信を持ってやっているというわけではありません。淡路島で自分のペースで自分なりに勉強しながらやりたかったんです。その方が自分のスタイルに合うというか。だから今でも、経営などについては自信がないことの方が多いですよ。でもお洋服自身は一番自信をくれるものなので、自分自身に自信がなくても常にお洋服がある環境っていうのは心強いです。

ーーご自身にとってお洋服はとても大切な「存在」なのですね。
ちょっとそう言い切りたいんですが、まだそこまで言える自信はないです。本当はもっと言い切りたいことですが、、時間とともに自信をつけていきたいですね。普通の人と逆の手順をしてると思いながら、矛盾を抱えながらやってますよ。

ーー普通ではないやり方なんですね。
そうですね、自分には常識がなかったですね。(笑) なので、全然まだまだやなって思うことも多く、傍から見たら無名の僕が、この年齢でセレクトショップをオープンすることは、正直かなり非常識だなと思っています。だからこそ、お店が始まったことがゴールとは一ミリも思ってないですね。今がスタートであるというか。

ーーオープンはゴールではなく、スタートだと。
はい、今はなんとか、僕に自信をくれるお洋服がそばにあること、培ってきた感覚を信じてやっています。オープンに関しても、決断して決めたというよりかは、悩んで柔軟に決めたことが多かったです。なので、こうしてオープンできたのは、本当にブランドさん・デザイナーさん方有りきですし、僕だけじゃできなかった事だと心から思っていますね。奇跡に近いです。

ーー奇跡に近いといえるって、周りの方への感謝を凄く感じます。周囲の人の存在は大きかったのでしょうか?
ブランドさん・デザイナーさんを含め、流れを作ってくれたありがたい環境はありましたね。島内外含めて、同い年でお店をやっている子がたまたま結構いて。そういう姿を見てきたのも大きいかもしれません。店舗の内装デザインも信頼する友人に依頼しました。彼は東京と淡路島の二拠点で活動していますね。

淡路島だから当たる、個人への焦点。
なぜか言いたくなってしまう「淡路島」という言葉。

ーー少し話は変わりますが、ご自身にとって淡路島はどんな場所ですか?好きですか?
そうですね…好きに”なった”という感じでしょうか。

――好きになった、んですね。それはいつからですか?
淡路島じゃなくて別の田舎に住んでてもそうだったかもしれないですが、色んなものが都会と比べて無いものは多かった感覚がありました。そういう意味では淡路島のことが好きじゃなかったかも知れないです。自分が好きなジャンルからはかけ離れているなと思ってたかもしれません。

ーーそこから、どうして淡路島が好きになったんでしょう?
時代も進み、どこでも何でもできることが増えて、改めて地元である淡路島を見返すことが増えたからかもしれません。だから、今は淡路島が好きですね。見返したときに淡路島にはいいところがあると気づきました。起業してはじめて、個人の事業者さんをひとりひとり見ていくことができるようになりました。それは、ありがたいことですし、そのおかげで淡路島のことを好きにさせてくれた気がします。起業すること、周囲に起業している方がいなければ、淡路島を振り返って見たり、自ら足を運んで見たりする機会がなかったと思いますね。各職種のヒトが、淡路島を好きにさせてくれたっていうのがある気がします。

ーーセレクトショップとして、淡路島でお洋服を届けることの意味や意義はいったい何なのでしょうか。気になります。
先ほどの話に続きますが、一個一個に対して見ることが増えたということは、逆に言えば、ネットをはじめ情報が多すぎるせいでその一個一個が多くなりすぎて、一個一個を丁寧に見れない時代にもなったと思うんです。目が肥えすぎて、見ることだけに納得してしまっている気がします。でも個人的にそういった価値観や流れに疑問があって。自分にも言えますが、いいモノやいいコトに対しても流し見してしまう時代にもなったと思うんです。だからこそ、実際毎回新しいモノを生み出す努力をされているブランド・デザインの価値は実際に見て欲しいと思いますね。

ーーたしかにお洋服をネットで買うことも増えていますよね。自分の目で見て感じて、そういう行為が少なくなっているように思います。
だからこそ、わざわざ淡路島に来てまでも見るセレクトショップにすることで、ネットでできないことを形にしたかったんです。所謂めんどくさいほうがちゃんと見てくれると思いました。お客さまでも、本当は一個一個見ることに対して感謝したいけど、その一個一個が多すぎて逆に見れない。でもその状況に納得してしまう人が、スマホによって増えていますよね。それと真逆のことをしたかったんです。そういう意味で淡路島という立地は良いのかも知れないですね。情報がそもそも少ないので。そこでの、もの選びやブランド選びは慎重になりますから。

ーー淡路島だからこそ出来る、お客さまの来店行為も含めたコミュニケーションなんですね。淡路島で生まれ育った個人として、淡路島へはどんな想いがありますか?
なぜか言いたくなっちゃう島、という感覚はありますね。みんな”淡路島”って言っちゃう。たぶん他の兵庫県の地区のことを、住民がこんなに言うことはない気がします。神戸くらいですかね?淡路島ってみんな自信や誇りがあるというか。なんやかんやみんな好きなのが伝わる島なのかもしれませんね。僕も外に出無ければ、わからなかったと思いますね。島だからこそしっかり離れて、淡路島を第三者的に見れるのかもしれません。

かっこいい店ではありたいけど、かっこつける店にはしたくない。
未来を見据えられるお洋服との出会いを、ここで。

ーーお話をしていると店主さんの世界観やこだわりが緩やかにでも確かに伝わってきます。どんなことを大切にされているのですか?
実は我が強いって思われるけど意外と流されやすいんです。というか、流れを見るのが好きなのかもしれません。だからこそ流れているところに対して、どこか自分がはまれるのかっていうのを選べるのだと思います、それは、淡路島を好きにさせてくれた起業した人のおかげでもありましたね。何でもかんでも量販店みたいに売るっていうのは我が強いからできなかったですし、そこはちゃんとこだわりを持って自分の好きなもの・届けたいものを提供したいと思っています。

ーーAVETに訪れると、その感覚を肌で感じます。
AVETはもちろん”かっこいい店”ではありたいけど、”かっこつける店”にはしたくないなと思っていますね。都会のお店は敷居が高そうに見えて入りにくいという人も多いですが、そういう人でも気軽にお越しいただける場にしたいです。だれでもかれでも、という意味合いではなく、そんな僕の店だったら来てくださいみたいな感じです。

ーーたしかに、店主さんは基本カジュアルですもんね。(笑)
それいいですね。カジュアルな店主。(笑)ひとつ目指していることとして、アパレルのカジュアル化にも比例していきたいと考えているんです。もちろんデザイナーさんもお洋服が好きな人にたくさん届けたいと思っていることが大前提だとは思うのですが、こんなに良いものがお洋服が好きな人にしか伝わりきっていないっていうのがもったいないと。
とはいえ、今まではお洋服が好きじゃない人たちにとっては、場所がなかったから、きっかけも、接点もなかったので仕方ないことだと思うんです。でも今は時代的にSNSで接点もつくれますし、自身がお店を淡路島でやるからこそ、お洋服と多様な世代の人との接点を作りたいと思いますね。AVETのお洋服で全て揃えて欲しいわけではなく、その人の一個のお気に入りが見つかればいいなと思っています。淡路島でわざわざ買うからこそ、永く使いたいと思ったり、愛着が沸いたりすると思うんですよね。

ーーたしかに、新しい世界、さらには自分との出会いにもつながりそうです。
生地のこだわりや、バックボーンのあるお洋服、抽象的に言うと未来が見据えるお洋服との出会いを提供したいですね。ヒトでも結構一緒だと思うんですが、この人とは一緒におってしまうんやろうなって思う瞬間って結構あると思うんです。それがお洋服にもあるというか。

ーーなるほど、人と同じように出会う感覚を刻んでくれるものというか。
感覚的で抽象的なのですが、「このお洋服はこれからも一緒におるやろうな」と思わせてくれる魅力的なお洋服たちとブランドさんたちと自分の感覚とをAVETという場を通じて提供したいですね。「これからも」という言葉は、環境次第で変わることが多いので言い切れませんが、その時の予感は大切にしていいし、想っていいことだと思うんですよね。そんな風に瞬間的に思ってもらえるお洋服を並べたいです。地域の高校生やおじいちゃんおばあちゃんの世代の人も気軽に来れる場でありたいなと思います。

ーー今後具体的にやってみたいことはありますか?
先ほども少し話しましたが、色んな業種で活躍している方々がいるからこそ、その方々がかっこよくあるため、少しでも自信を持ってもらえるお洋服があれば良いなと思うんです。そういう意味では他業種の方々に関われる仕事だなあと、嬉しく思っています。その方にとって、AVETが届けたお洋服がユニフォームになったら嬉しいですよね。例えばやりたいこととしては、AVETの服を着てインタビューしてます、でも店主はいません、みたいな企画ですかね。(笑)
淡路島ほどこんなに一人一人の業種がフォーカスされる場所は無いと思うので、その世界線と出会い続ける経験はおもしろいと思います。
地域でこれから何かをはじめる方、今も何かをやっている方もそうですし、そういう方々が1人1個AVETで気に入ったアイテムを持っているようなお店にしたいですね。メディアのインタビュー記事などで、インタビューされている方がAVETのお洋服やアイテムを身に付けてるのを発見出来たら嬉しいですね!

▼編集後記▼

セレクトショップであることを忘れる空間、という言葉が合っているかは分からないが、訪れるたびにそう思う。それは(本当に)カジュアルな店主さんがつくっている、自然体で飾り気のないコミュニケーションのおかげだろう。

一方で、店主の感性で集まったお洋服やアイテムが立ち並ぶ店内、こだわりの内装が施された店内に身を置くと、自然と心が癒される。訪れた後には、心地よい余韻を感じる。温度を帯びた美しいものに囲まれているからだろうか。

きっとこれから志筑の街に、新たな世界を見せ続けてくれる存在となっていくのだろう。ただのお洋服屋さんではない、不思議な場所へぜひ一度足を運んでみて欲しい。

Instagram:@avet_awaji
https://www.instagram.com/avet_awaji/

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