これは、[NPO法人島くらし淡路]の堀内さんがよく口にする言葉です。「ここで移住相談をしたら、私とはもう知り合いでしょ」と笑顔で。堀内さんの人柄をご存知なら、みなさん納得なのでは?
今回は、そんな堀内さんにインタビューを受ける側になってもらいました。いつもは移住サポートをする側ですが、どんな風に人と会い、島との縁をつないでいるのでしょうか。
舞台は、[島くらし淡路]の活動拠点である古民家の縁側。聞き手は、[淡路島ローカル情報 COTOCO]の制作に参加する[島くらしサポーターズ]です。
淡路島に興味がある方、移住相談をしたい方、そして地元のみなさんにも、ぜひ読んでいただけると嬉しいです。
ーーーこのインタビュー直前にも、相談の電話がありましたね。先日の全国規模の移住イベントでも、休みなく対応していたとか。
堀内 ええ。ここ数年、相談件数は増える一方です。といっても、相談に乗ってるというより、雑談をしながら島とのご縁つなぎをするという感覚。NPOの活動は6年目なのですが、これまで出会ったみなさんが言っていた「実感のこもったセリフ」を、他の相談者さんに話すようにしています。
例えば、神戸からの移住者さんが「私はただの“引っ越し“です」と言っていたことがあって。
今の風潮では、都会からの転居のすべてを『移住』と呼んでいますよね。まるで人生が一変するように言われてしまうけど、ただ新しい地域で生活がはじまるだけのことだよなぁ、とすごく納得したんです。
この「移住じゃなくて引っ越し」という言葉を他の相談者さんに伝えると、いい具合に肩の力を抜いてもらえるように感じます。
ーーー移住者さんの体験からくる言葉が、次の人の背中を押しているんですね。
堀内 体験した人の言葉は、すっと伝わりやすいでしょうから。私のように島のくらしが長くなると、島の魅力や移住に対する気持ちが見えにくくなっているのかなと思って。島では、海沿いを車で走るのはごく日常的なことなんだけど、「海を見ながら通勤っていいわ」と聞くと「そうよね!」とハッとするんです。
移住を考える人と同じ目線で話ができるように、先に移住した人の言葉を借りて・・・という繰り返しですよ。
ーーー私も移住者なのですが、堀内さんとは初対面から話しやすかったです。
堀内 もともとは保育士をしていました。その後、介護士、住宅営業と、人と会って喋る仕事ばかりしてきたからかな。人見知りしないところが私の最大のいいところ(笑)。知り合いと話すように、相談者さんに対してもフラットでいたいんです。
ですから、メールや電話でも「こんにちは」からはじめるようにしています。「お世話になっております」って堅苦しくすると、お互いに本音が出ないでしょ。
ーーー移住相談では、何を聞くようにしていますか?
堀内 「なぜ淡路島?」
「どんな暮らし方をしたいと思ってる?」
「島に知り合いはいる?」
「車は運転できる?」
といったところからヒアリングをはじめます。
どんな質問も、先入観を持たずにまず聞くことを心がけています。ただ、何かを決断する際に「堀内さんならどうですか」と問われると、返事に困ってしまいますね。
ーーー島をよく知る人の考えを「決め手」にしたい相談者さんの気持ちはわかります。
堀内 淡路島って3つの市が集まっていて、案外広いんです。
「海を見て暮らしたい」といっても、島の西側と東側では、海の表情も気候も街のつくりも違う。カーテンを開けて目の前に海が広がるのは絶景だけど、台風後は家の外壁に水をかけないと塩害で傷んでしまうとか、車の底が錆びやすいとか。土地柄に合わせた特別なケアが必要なこともある。
相談者さんをもっと迷わせるかもしれないけど、良し悪しを包み隠さず伝えなきゃと思ってます。
「一人でひっそり」という理想も、この島には向いていない。それなら都会の方がいいと説明しています。
ーーーご近所さんや地域の人と関わりを持たないと、暮らしづらい?
堀内 草刈りなど、周囲と協力しなければならないことが多いですからね。
島の人は知り合いになるとグッと距離感が近くなるので、面食らう時もあるかもしれないけど、いいことの方が多いですよ。やっぱり「地域と関わりたい」と言って越して来る人の方が、地元の人にとってもいいかな。
考え方を変えて欲しいとは思いませんが、そう考える方が馴染みやすい。「近所に受け入れてもらえますかね」っていう相談も多いのですが、入る立場からも「こんにちは」と歩み寄ることが必要だと思います。
ーーー移住といっても、地元の人にとっては日常ですもんね。
堀内 そうですね。移住がただの引っ越しであるように、理想のくらしを叶えるには、大変なこともセットです。移住相談で本音を話し合う中で、良し悪しやリアルな事情も知ってもらって、「だから淡路島がいいんです」という理由を確認してもらえたらと思います。
ーーー今までの相談者さんは、子供が小学校上がる前の世帯や、定年目前の人が多かったけど、早期退職の人も増えてきたとか。
堀内 今、島への注目が高まっていると感じます。相談件数や、実際に移住した人数もぐっと増えていますし、ドイツやベトナムホーチミン、ケニアなど、外国に住む日本人からの相談もあるんですよ。コロナ禍の自粛生活で、ずっと家で仕事しているので日本に帰ることを考えておられるようです。
相談の半数近くが、住むところについてです。中でも、「淡路市移住相談サポート窓口」として淡路市暮らし体験住宅や淡路市空き家バンクの問い合わせを受けることが多いですね。AREINのような不動産情報ポータルサイト以外の物件はないの?といった相談も増えています。
地元の人に声をかけて、空いている家を掘り起こすことにも力を入れていますが、淡路市では、すぐ住み始められる物件情報があまり上がっていないのが現状です。
ーーーでは、どうやって物件を探せばいいのでしょうか。
ただ、少ないながらも不動産情報の新着はあります。「この日までに絶対に移住したい」というリミットがないなら、情報をこまめに気長にチェックして、見つけたらすぐ動いてみることが大切かと思います。
今、みなさん決断力が早いですからね。悩んでいるだけでは、すぐ先約が決まってしまうんです。
ーーー交流会やイベントでは、どんなことを体験できるんですか?
堀内 島のくらしの実状を見てもらうことがテーマです。子育て世代向けのバスツアーでは、保育園を見学したり、地元のスーパーで物価を見てもらったり。
観光地めぐりと比べると、地味でしょう(笑)
他にも、水産加工場でちりめんの製造を見学したあと、養鶏場で卵を手取り体験して、ランチタイムはちりめんをのせた卵かけご飯。地域で頑張る産業にも触れてもらって、島の自慢の美味しい体験もしっかりと味わってもらいます。
もうひとつのテーマは、先に移住した人も迎えて、全員と話せる場にすること。
移住相談では私が移住者さんの代弁をしていますが、直接会う機会があるなら、必要なことや大変なことがもっと伝わるでしょうし。その間、私はサボらずお子さんたちの面倒を見ています(笑)
ーーー交流会やイベントを通じて、移住前に知り合いを作ってもらう作戦ですね。
堀内 そうそう。「農業をはじめたい」という人には、実際に就農した人と顔合わせをして、畑を見に行ってもらいました。座談会イベントでは、地元の酒店やガス屋さんが地域の祭りの話をノリノリで語ってくださいましたね。
ーーーイベントというより、ご近所さんの寄り合いに混ぜてもらっているみたい(笑)。
堀内 はい。イベントや交流会はプラン内容を作り込まず、これまでの活動でできたみなさんとのご縁を深めながら、コミュニティ、出会いの場づくりをしている感覚です。
もちろん、大きなイベントも楽しいですよ。2021年には、島くらしフェスタという大規模イベントを初めて主催し、くらしを体験できるブースを集めました。
また、私が定期的に参加する淡路島オーガニックマーケット島の食卓は、個性的な農家さんや物販店が集まるコミュニティのようです。移住を考えるなら、こうしたイベントにもどんどん行ってみて欲しいですね。
ーーー今では島に詳しい堀内さんも、もともと移住者さんですよね。
堀内 私が島に来た当時は、移住なんて言葉はありませんでした。明石海峡大橋もなくって、島を出るには船のみ。知り合いは大学の友達ひとりだけだったので、昼は家でずーっと2000ピースのパズルをやっていましたね。
ーーー堀内さんにも、そんな時代があったんだ!
堀内 その後、子育てをしながら仕事をする中、ご近所さんには娘の部活の送迎を手伝ってもらったり、親子で食事に呼んでもらったり、家族ぐるみですごくよくしてもらいました。
娘が成人の時には着物姿を見せにも行ったんですよ。血縁じゃないけど、まるで身内のようです。
ーーーだから移住者さんの気持ちがわかるんでしょうね。
堀内 もうすっかり、移住者という自覚はないですけどね(笑)
相談をしてくれる方には「私が知り合い第一号です」と伝えているんです。きっかけは移住相談でも、何度も会話を重ねたらもう知り合い。「移住相談員」と「移住者」なんて堅苦しい関係ではなくてね。
先日も、移住者さんから電話をもらったんです。「堀内さん、粗大ゴミってどうしたらいいの?」って。距離が近くなったように感じてすごく嬉しかった。
ーーーまさに、知り合いに「ちょっと聞いてみる」感覚です!
堀内 そう!
東京の団地育ちのご夫婦が移住した時の言葉も印象に残っていますね。「島に来たら、子供たちの“実家”ができる」って。いつか子供たちは島を出て行くかもしれないけど、帰る場所を用意してあげられるんだと。
ーーー移住相談の先に、「淡路島が地元」と思う家族が増えているんですね。
堀内 運転していると島のあちこちが気になります。空いている家に家族が住みはじめたり、新しい家が建ったり。荒れていた畑がどんどんどんどん綺麗になったり。移住者さんが起こす島の変化を見つけるのが嬉しいですね。
それに、普段から移住者さんのことを考えていると、知らず知らずのうちに空き家を探してしまっているんですよ。「ここなら修繕も少なくて済みそうやな」とかね。
ーーー今、力を入れていることってありますか?
堀内 一番やりたいことは、移住者さんと地元の人を「混ぜる」こと。
移住してくる人って、考え方や価値観、働き方がみなさん個性的で、とっても面白いんですよ。私はこの仕事をしてるからそういう人とどんどん知り合いになるけど、接点のない地元のおっちゃんおばちゃんは、知らないまま。それに、移住者さんも、土地柄や風土を生かしてくらす地元の人と話したがっているはずなんです。そのギャップはもったいない!混ざったらもっと面白くなるのに。
ーーー島の人、島に入ってくる人、どちらともつながっている堀内さんだからこその視点ですね。
堀内 両者を「混ぜる」きっかけとして、[淡路島ローカル情報 COTOCO]を立ち上げました。「淡路島の人の顔」を島内外の人にもっと知ってもらうところからはじめています。
例えば、地元企業の社長さんに仕事内容や仲間のことを[COTOCO]で語ってもらえば、「面白い社長だな」と、思い切って就活に動いてくれる移住者さんがいるかもしれない。
ーーー移住にあたって「仕事」は避けて通れない問題ですからね。
堀内 淡路市商工会の人から、採用情報を出してもなかなかエントリーがないという声を聞きます。その原因のひとつは、定番の採用情報だけではお給料や事業くらいしか分からなくて、働く場所をリアルにイメージしにくいからではと思ったんです。
かしこまった会社概要よりも、ざっくばらんに話す社長の様子を記事にして、興味を持つきっかけを作りたいと。
リモートワークやワーケーションなど新しい働き方がどんどん生まれている時代ですから、企業さんに対しても「週4日勤務可というように、雇用条件も柔軟にすると、移住者さんの価値観に響きますよ」と伝えたりもしています。
ーーー特に若い世代の仕事への価値観は、これまでのものとギャップが生まれてきていると感じるのですが。
堀内 そうですね。
[島くらし淡路]では、淡路島で100件の地域プロジェクト創出を掲げる淡路ラボとの連携を2021年からはじめているんです。全国の学生たちと地元企業がリアルなプロジェクトを共創することで、互いに理解を深めるきっかけになるのかなと思っています。[COTOCO]としても、少しづつ関わっていただいています。
ーーー他にも、先輩移住者さんや地域の世話人さんの記事もありますね。
堀内 移住、お仕事、子育て、ご近所付き合い・・・いろんな人にいろんなテーマを語ってもらって、島でイキイキくらす人の顔を紹介していきたいですね。新しい移住者さん、地域のおっちゃんおばちゃんや若い人たちにも、どんどん登場して欲しいと思っています。
そして、[COTOCO]を記事にする時も、語り・写真・イラスト・文章など、島のみなさんにもっと参加してもらえる方法を模索しています。
ーーーこの場所って、島くらし淡路の事務所というより、まるで移住先のようですね。
堀内 「おばあちゃんの家みたい!」「堀内さんの家ですか?」って言われます。
本当は、コロナ禍前にやっていた「オープンデー」を再開したいんです。縁側で地元のおばちゃんが友達とワイワイしている横で、畳の部屋では子供を遊ばせたり、こたつで移住相談をしたり、誰が来てどう過ごしてもいい日をまたつくりたい。「あら、私そこに住んでいるのよ」と、来た人同士でLINEの交換をしてもらうとか。
ーーーここを起点に、自然と人がつながって、移住者さんも地元の人も、みんな「島の人」になっていくイメージですね。
堀内 社会福祉協議会との会話でよく話題に上がるのですが、高齢の人、障がいのある人などと区切らずに、まちづくり全体を見据えないと未来につながらないと言っています。組織が違っても、見ているところは一緒なんだなと思いますね。
これも移住者さんからの言葉なのですが、「地元のおっちゃんおばちゃんはなんでもできて格好いい」と聞きます。自分で草刈りして、野菜を作って、機械も直しちゃう。
食糧自給率100%、自然が豊かで利便性もいいなど、「淡路島っていいね」と島外の人が言ってくださる言葉のほとんどは、これまで島の人が守り続けてきたことの表れなんですよ。
だけど今、百姓仕事や暮らしの知恵、地域に根付いた行事といった、昔からの技や習慣を上手に受け継げていないように思います。
ーーー高齢化や農業離れ、空き家といった課題は、淡路島も例外ではないですからね。
堀内 華やかな観光地や新規事業もいいですが、このままの良さを持続したい。住みたい人にもっと来てもらって、地元の人とも積極的に混ざって、島のくらしをずっと守っていきたい。・・・なんて、思うことはいっぱいあるけど、ちょっとスケールが大きすぎたかな(笑)
ーーー最後に、このページの読者さんにメッセージをお願いします。
堀内 [島くらし淡路]が大切にしているのは、人が中心ということ。知り合いをつくるように、人とのつながりを混ぜていって、もっと島のくらしを心豊かにしていけたらと思っています。
まずは、[COTOCO]の気になる記事から読んでみてください。そして、「私もこんな話がある」「こんな面白い人がいる」「移住者さんと話がしたい」という人も、ぜひご連絡ください。
みなさんご一緒に、淡路島の魅力を知って、伝えて、守っていきましょう!
ーーーありがとうございました!