島くらし淡路

           

「起業×空き家をリノベ」で自分の想像を超えた淡路島暮らし

2023年1月に自宅のすぐ近くで貸別荘業を始めた北村ご夫妻。なんとそのお宿は、購入した古民家を夫婦でDIYした物件とのこと。前回のインタビュー(下線部URL:https://sk-awaji.com/interview/interview-shima2/)から3年半が経ちますが、介護のお仕事と青果会社のパートを続けながら宿のオープンまでどのように至ったのか、お話を聞いてきました。

北村 一雄さん、由美子さんご夫妻
山陰地方から淡路市に移住9年目
仕事:貸別荘運営、オリジナル椿オイルブランド運営、訪問介護、青果会社のパート

「前回インタビューしてもらったときには、自分たちが貸別荘業をやるなんて、まったく想像もしていませんでした(笑)」

遡ること3年前、移住後しばらく賃貸物件で暮らしたのちに購入した小高い丘の上の一軒家で、由美子さんは訪問介護のお仕事とオリジナル椿オイルブランドの運営を、一雄さんは玉ねぎ農家さんでパートをしながらお子さん二人と家族4人で過ごす日々を送られていました。子育てに仕事に忙しくも充実したその生活に満足して楽しく暮らしていたなかで、ある日突然、その日がやって来ました。

 

「自宅の斜め前に空き家があったんです。不動産屋さんにも定期的に購入を勧められていたのですが、建物が古くてそのまま住めるものではなかったので、検討すらしていなかったんです。でもあるとき、旦那さんが「やっぱりこの場所はいいよね。この土地はいいよなぁ』と言い出して、その言葉を聞いて私も直観的に『何か可能性があるかもしれない』と思ってしまって」

この古民家は、現在土地の価格が高騰中の淡路島にあって、当時の金額は破格と言えるものではあるけれど、ローンを2つも抱えることになるという現実は北村家にとってはかなりの大きな決断でした。しかも、購入時は具体的な活用の方法も思い浮かんでおらず、草刈りだけしてある放置物件のまま時間だけが過ぎていきます。

 

「購入後しばらくして、この物件を事業所にして介護で独立開業しようと思い立ちました。事業計画書を片手に頑張ったのですが、事業資金の融資審査が箸にも棒にも掛からず、思い描いていたイメージが崩れ去りました。でも、最後に断りの電話が来たときに何故かホッとする自分がいたんです。今思うと、介護事業計画のときは、どこか無理している自分がいたのかなと思います」

 

「残念だったなぁ」と、とん挫してしまった計画について思いを巡らせながら、空き家のなかを片付けていたときのこと。「それでもやっぱり、この空き家で何か循環できるものがあるはず」という思いが沸き上がり、思い切って壁を一つ壊してみたところ、それまで暗かった部屋がとたんに明るくなり、家の印象がまるで違うものになったそうです。

 

「味をしめた私たちは、その後もどんどん他の壁も壊していったんです。最後には倉庫そのものもとっぱらったら、家から海が見えるようにまでなりました。物理的に家の中に光が差したら、私たちの気持ちにまで光が差して、『これなら、宿でもやろうか?!』とアイデアが頭に浮かびました」

 

当初はそこまで手は加えず、きちんと綺麗にだけして素泊まりで2,000円くらいの宿にしようと考えていたはずが、ペンキを塗るなどDIYが始まると「お客さまを迎えるなら、もっと心地良いと思えるレベルにしよう」と方針がどんどんグレードアップしていき、気付いたらDIYの費用も家計を圧迫するくらいまでグレードアップ。親戚に頼んでお金を借りて凌いでいた北村夫妻に追い打ちをかけるように、時代はコロナ禍に突入します。

 

「コロナ禍で二人とも収入も減っていくなかで、引き続きDIYの費用はかさんでいって、お金が本当に回らなくなってしまって…。寝ていても夜中に目が覚めるんです、『苦しい!』って。SNSで周りにも『宿をやることに決めた!』と宣言した後でしたし、行くも地獄、帰るも地獄。自分で自分の首を絞めている状態でした」

 

それでもやっぱり、宿がやりたい気持ちは変わらず、「もう貸さない」と断言していた親戚をなんとか説得し、追加融資をしてもらえることになり、状況は一変。資金に余裕ができてDIYも一気にはかどり、スタートから一年半を経て無事にオープンにこぎつけます。ちょうどコロナ禍が明けたタイミングでの開業となり、最初の夏はほぼ満室という好スタートを切り、開業から2年目も集客は順調で、融資の返済の目途も立ち、「こんなにうまくいくなんて、自分たちが一番驚いています」と由美子さんは話します。

 

「初めてのお客様を迎えた瞬間は今でも忘れられません。今ではお客さまが私たちの宝です。毎回、喜びを噛みしめています。移住前はもちろんのこと、この物件を購入したときでさえ一ミリも想像していなかった未来に、辿り着いています」

 

接客業の経験はあっても、宿泊業は全くの素人であるお二人。「宿をやろうと思う」と決めたときには、突然沸いた思いだけで未経験の業界にチャレンジすることに周囲から反対の声もあったといいます。

 

「逆に、そんな私たちを手放しで応援してくれる人たちもいました。壁に漆喰を塗る大変な作業を二つ返事で引き受けてくれた友人たちもいて、そのときも嬉しくて泣いてしまいました。当時は辛いことも多かったですが、本当に大切な人が誰かも分かった、貴重な体験でした」

 

現在、由美子さんは引き続き訪問介護と椿オイルブランドの運営をやりながら、一雄さんは宿泊業をメインに据え、青果会社のパートのお仕事を減らしてお客さまをお迎えするスタイルで宿泊業としての次の一歩を計画中の北村家。

 

「途中、これ以上先に進んでいいのかと何度も自分に問うことがありましたが、自分の感覚的に進むことを選んで来て本当に良かったと思っています」と話す由美子さんは、ここまでの苦労を感じさせない笑顔で今日もお客様をお迎えしています。

 

 

ドラマにもできそうなストーリー展開で、空き家リノベの美しいまでの成功パターンとなった北村夫妻ですが、ここは敢えて、今後同じように空き家リノベを考えている人のために、空き家リノベの一番苦しかったことも聞いてみました。

 

「DIYだとまず、リノベで出た残骸の処理が本当に大変です。昔の家によくある綿壁(土壁)は特に重たくて自分たちでは運べないので、高いお金を出して業者さんに回収してもらう必要があります。廃材はリサイクルして外の机にしたり、薪にしたりできますが、木材以外の廃材の扱いは要注意です」

 

 

<リンク>

椿油のブランド「yucaria」

ウェブサイト:https://yucaria.com/

instagram:https://www.instagram.com/yu_caria/

Facebook:https://www.facebook.com/yucaria39/

宿「enone(エノン)淡路島」

instagram:https://www.instagram.com/enone22111/

Abnb:https://www.airbnb.jp/rooms/837279362811173396?_set_bev_on_new_domain=1727679471_EAN2VhODE5YjljMz&source_impression_id=p3_1727679472_P3XsXojHK1WsV53J